そんなのカンタンだよ -  ハサミで植物の枝をカットして、培地に挿していくだけ。でしょ?

不正解? だったらこれは?ハサミで植物の枝をカットしてプロパゲーターに入れる。だよね? いえいえ、それも不正解。手順は合ってますが、植物の挿し木取りを成功させるための手順は、そんなに単純ではありません。高価なキットを買うことが、成功を約束してくれるわけでもありません。植物の挿し木取りは、その原産地を知ることからはじまります。

植物の挿し木とは?

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挿し木とは、親株の幹細胞を少なくても一つ以上含む植物片のことです。挿し木の種類に適した培地に挿した後、一人前の苗になるまでに管理が必要ですが、適した光の強さ, 気温, 水質, そして肥料バランスは、親株(親株とは、増やすために挿し木を取る目的で管理される株のこと) が好む条件と同じです。 例えば親株がリン酸不足であれば、挿し木もリン酸不足状態です。 しかも、まだ足(根)が生えてない挿し木は、食べ物や飲み物にありつけないので、欠乏症はさらに悪化します。そのため挿し木の苗は生長するにつれて、なんらかの問題(例えば欠乏症)が、あっという間に出ます。

挿し木の種類

挿し木には、基本的に頂芽のついた枝を使う頂芽挿し(ちょうがざし)と、 葉とわき芽のついた茎を使う葉芽挿し(はめざし)の2種類があります。葉芽挿しは、わき芽と葉を1,2枚 のこした状態で、茎をいくつかに分割するので茎頂部がありません。頂芽や枝先を使う頂芽挿しは、葉芽挿しよりも発根しやすく、早く生長します。葉芽挿しのほうが時間がかかる理由は、硬化した茎から根が出て、わき芽がやっと休眠から目覚める、という2段階のプロセスを経るからです。

親株の準備

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親株の活力は高く保つべきですが、同時期に大量の挿し木が発根して、生長期の苗だらけになる事態を避けるためにも、あまり早く生長させないよう管理してください。親株には、標準的な生長期の肥料を与え続けます。肥料をたくさん与えてしまうと(とくに窒素) 、炭水化物が減ってしまうので発根しにくい軟弱な挿し木になってしまいます。親株が肥料過剰になると、挿し木の発根率、大きさ、根の数が低下します。親株に最適な肥料比率については、挿し木をとる植物の種類の多さと同じぐらい多種多様なため断定できませんが、親株の状態に合わせて肥料を与えてください。

枝挿しの挿し木をする場合は、できるかぎり節間(節と節の間)が短く育つよう親株を管理します。節間が徒長するようになったら、窒素分量を減らしてください。

同時に、窒素以外の肥料が不足 しないよう注意し – 厚みがありツヤツヤとした緑色をした健康な葉の状態を維持してください。普段当てる光は強めで維持しますが、挿し木を取る1週間前から、光の強さを1/3に減らしてください。しかし弱すぎる光は、節間が伸びはじめて徒長してしまうので、あまりにも弱くしすぎるのも禁物です。枝を切った後の親株は、根を失うのと同じぐらいダメージを受けるので、通常より弱い光で管理してください。

挿し木取りをする前日は、必ず親株に水やりをしてください。挿し木を取る作業は、明るい時間帯にすませることがベストです。また、親株が安定した生長をしているかを確認し、2週間前から絶対に水切れを起こさないよう注意してください。健康で活発な親株から取った挿し木は、同じくコンディションが良好な苗に育ちます。

挿し木にする枝を切る

さて、親株は元気だし、さっそくハサミを持ってこよう… いえいえ! 挿し木を取る前に、もっとすべきことがあります! あらかじめ切らない枝を決めておくことは重要ですが、どの部分の枝を切るのか、どのように切るのか、切った枝をどうするのか、を決めておくことも同じくらい重要です。 その理由は? 切った枝のすべて有効活用し、一定の収穫を維持するために、親株の本数とスペースは必要最小限にしたいからです。 また、‘ブラインド’挿し木 (根は出るが、ついていた芽が生長せず苗にならない) の発生を最低限に抑えられ、挿し木の発根をそろえられます。挿し木がブラインド状態になると、ほとんど育ちません。

挿し木には、四つの種類があります :

  1. 熟枝挿し (広葉樹)
  2. 熟枝挿し  (常緑針葉樹)
  3. 半熟枝挿し
  4. 新芽 (緑枝) 挿し

また、挿し木の種類ごとに最適な枝の切り方と管理方法があります。

これらは、植物の種類 (木本または草本), 活動状態 (生長または休眠) 、繁殖の用途に合わせて選びます。草本(そうほん)植物に適した挿し木方法は、すべての植物にあてはまるので一般的な挿し木の方法として使われますが、木本(もくほん)植物の挿し木取りができるのは、その春に新たに伸びた枝のみです。

どの位置の枝を切る?

挿し木に適した枝は、株の中間の高さにある、硬すぎず柔らかすぎない枝です。茎頂部(トップ)に近いほど炭水化物が少なく窒素が多くなり、根元に近いほど炭水化物が多く窒素が少なくなるので ; 真ん中の高さが挿し木に適したゾーンです。 その見分け方は? ほとんどのグロワーは経験から身につけていることですが、ビギナーには ’ベンド・テスト’ をおすすめします。枝の見当をつけたら切りはじめる前に、切る位置を指で折り曲げてみましょう。起こるのは、次の3つのパターンのいずれかです :

  • ぐにゃっと曲がったままの枝 (窒素多め、炭水化物少なめ)
  • 半分に割れるか、ほぼ割れる枝 (窒素少なめ、炭水化物多め)
  • 折った部分でシャープに折れたまま、割れない枝 (ドンピシャ!)。この位置の枝が正しいカットゾーン であり、茎全体の中でもっとも発根しやすい位置です。次に茎のどこを切るべきかを説明しましょう。

どうやって枝を切る?

葉と葉の間にある茎の部分を 節間(せつかん)といいます。 植物には、節(ふし)から発根するものと ( 茎は、節と節間に分かれていて、葉がついている節の部分から新芽が出て展開すると、葉や花、毬花、茎にへと生長する ), 節間に根が出る植物があります。ポイントは、節から発根する植物は、なるべく節に近いところで枝を切り、節間から根が出る植物は、節間の中央で枝を切るということです。

ここで大事なことをいいます … まっすぐ切ること。ななめ切りはダメ! (編集部注: ななめ切りは絶対にダメではないのですが、切り口の断面が大きくなるので 病害菌 の感染リスクが、少しだけ高まります。 ななめ切りのほうが、挿し木の発根量が多くなりやすいメリットがあるのですが、病害菌でダメになる挿し木の数を最小限に抑えたい場合は枝をななめに切らず、まっすぐ切りましょう)。

ななめ切りも、まっすぐ切った切り口のほうが、傷口が早くふさがりカルスの形成が早いため、病害菌の発生を抑えられます。ただしバラのような切り花の場合は、切り口から水分をより多く吸収させたいので、断面の面積が大きい、ななめ切りが適しています。ただし、挿し木を取る時は、切り口の組織をつぶさないためにシャープなナイフ、または剪定バサミを使ってください。

切り口の組織をまったく押しつぶさないように切ることは不可能でも、最適なカッティング・ツールを選べば、ダメージを大幅に減らせます。植物の種類や部位によりますが、シャープにスパッと切らなくてはなりません。草本の植物体(草本植物の葉と茎は、活動シーズンが終わると地上部は枯れるが、休眠する部位が地表や地中に残る。活動の季節になると、その部位から再び新たな芽が展開する。この植物は木質部をほぼ、または、全く形成しない)と、非常にうすい木質体(もくしつたい=木質化した植物体。維管束の活動により樹皮が厚くなった多年生植物の茎は、その年から翌年にかけて地上部で活動しつづける。)を切るには、園芸用の接木・芽接ぎナイフと呼ばれる専用のナイフが最適で、その次が剪定バサミです。ハサミ、枝切りバサミ、指で切ると茎が押しつぶされてしまい、切り口がシャープにならないので避けてください。

挿し木枝は、やさしくケア

すべての枝は、切った直後から湿度100%の環境で管理しなくてはなりません。万が一、枝が乾いてしまうと、挿し木取りは失敗するでしょう。暗くて涼しく、高湿度の環境で管理してください。広い場所で作業をする場合は、湿らせた綿ガーゼやリネンのクロスで挿し木を包んでください。枝の切り口を少し乾燥させてから、発根用培地に挿したほうがいい?
いいえ – 草本植物の挿し木は腐りにくいのですが、茎にリグニンが少ないので木本植物(もくほんしょくぶつ)よりも発根しやすいのです。そのため枝を乾燥させる必要はありません。枝の上部に含まれているオーキシンを切り口のほうへ移動させて発根をうながすために、手早く作業を済ませてください。ここで注意点です – エアロポニックタイプのクローン・マシーンを使う場合、根元にはミストが噴霧できるが枝葉部分の湿度を調節するカバーなどがない時は、切り口をななめカットにして水分の浸透量を増やすことをお勧めします。

発根用培地について

発根用培地は、挿し木が発根してから定植する培地と同じものを使ってください :  ハイドロポニック・システムで不活性な培地で育てるのであれば、不活性な発根培地を選び、有機培地で育てるのであれば、有機質の培地を使用します。培地の種類を同じにすべき理由は、植物は培地に適した性質の根を新たに発生させるからです。エアロポニックスなど、水の中で発根させた苗を土壌やソイルレス・ポッティング培土で栽培すると、植物は水よりミネラルが多い環境にあった根につくりかえる時間とエネルギーを費やすため、ロスが出てしまうのです。発根後にクレイペブルスに植える予定なら、水、ロックウールなどで発根させれば、最初からその環境にあった根が発生します。発根用培地に枝の深植えは禁物です – トマトは深植えしても大丈夫ですが、ほとんどの植物は発根できません。節から発根する植物は、節がかくれる程度の深さまで植え、そうでない植物は節を出して植えてください。

最後に、挿し木の枝を培地に密着させ固定するために、必ず水やりをしてください。

挿し木に最適な環境について

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では次のステップは? ええと、親株に肥料を与えて、挿し木にする枝を切り、その枝を最適な培地に植えました......次は湿度を100%にしましょう。プロパゲーション用ドームをかぶせたり、エアロポニック・システムにセットすればいいんです。サボテンや多肉植物など、乾燥した環境で発根できる植物以外の植物は、このやり方が有効です。湿度を高く保つと植物に水分を供給できるので、植物は消費する水分量を減らせます。

湿度を高めに保つことで、ピンとした葉と生長活動を維持して発根を促します。同時に、強すぎる光は禁物です。スムーズに発根させるために、弱い光で管理して葉の負担を減らしてあげましょう。新たな根の組織を作り出すまでの間、葉の蒸散を少なく抑えられます。挿し木枝の周辺温度を保温して(高温にはしない)、湿度を高めに保ち (90%以上), 培地の温度も温かく維持してください(約25°C)。

切り口にカルス組織や根の形成(発根のシグナル)が出てくるまでは湿度を高めに保ちつづけ、発根後は湿度を80%以上、90%以下で管理して、根の生長をうながし挿し木を生長させます。

根が発根培地からも伸び出したら病気の発生を防ぐために、湿度を80%以下にして葉面散布をやめます。

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発根したら、いつ植えつけるべき?

このタイミングの見極めがとても重要です。根がルートボール状になるまで伸びてしまうと、根は老化してしまい ‘根詰まり’状態になってしまうので、最後まで枝数が少ない貧弱な苗のままになります。根が長く伸びすぎる前に、植えつけてください。また、植えつけるまでは活力剤(根の生長促進剤)を与えないでください。枝を小さな発根用培地に挿した場合は、培地から根が出てきたら根の活力剤を与えます(発根する前から葉面散布で与えられる活力剤もあります)。 注意点として: 発根したばかりの挿し木苗は、大きすぎるポットに植えないでください。例えば3cmキューブの発根用培地で発根させた挿し木を20ℓの大きなポットに植えてしまうと、培地が常に湿ったままになるので根が伸びません。1 ℓ程度の育苗ポットに植えたほうが培地が適度に乾くので、根がよく伸びます。

根を傷めないためには:100%の湿度が必要です。根の先端である根端(こんたん)は、空気にさらされる時間が長いほどダメージを受けるため、根端が空気に触れる時間を最短にしなくてはなりません。午前中に、何百本もの挿し木苗をプラグトレイから一気に引きぬいたまま放置して午後に植えつける、というようなことは禁物です。15分以内に育苗ポットに植えつけられる本数だけをプラグトレイから引き抜くか、クローンマシーンから取り出してください。挿し木苗を育苗ポットや栽培システムに植えつけた後は、培地の種類にあった必要最低限の濃度の培養液、または水だけを適量与えます。

失敗しない挿し木の植えつけ方法のまとめ

発根した挿し木苗を最初に植える時は、広大な培地の中にポツンと苗があるような大きなポットに植えつけるべきではありません。たった10cm丈ほどの挿し木苗を20ℓのポットに植えてしまうと、栽培スペースがムダになる上、常に培地が水分過剰になるせいで根が酸欠になるからです。

まずは育苗用の小さなポットに挿し木苗を植えて、ポットの底から根が出てきたら大きめのポットに植え増しをしましょう。植えかえの鉄則ルールである、新しい根が古い根鉢の周囲に張り出すほど伸びたら、ひとまわり大きなポットに植えかえる、と同じ原理です。根の量に対して培地の量が常にちょうどよければ水分量が適度になるので、根が加湿状態にならずにすみ肥料の吸収が活発になり、たくさんの収穫が楽しめるようになります。

肥料を与えはじめるタイミングや与える量は、使う培地の種類によって変わります。培養土やピートのような有機質の培地に培養液を水やりすると、成分の大半はダイレクトに、あるいは保肥成分を介して培地に吸着します。もしも植物の根が培地全体に十分に張っていないと、吸収されなかった肥料成分が培地に残り、最終的に培地内の肥料濃度が高くなりすぎることがあります。

これを防ぐために、挿し木苗や幼苗には常に肥料濃度を薄めに与え、若い苗が徐々に育ってきたら、根の量に合わせて肥料濃度を増やしましょう。葉面散布が可能な肥料や活力剤を与える時は、低濃度でスプレーすることが鉄則であり、エアロポニックなどのミスト・システムでは、窒素やその他の肥料が葉から逆流して、葉焼けが起こりやすいので注意が必要です。一般的には、5日以内に発根する植物には、低濃度での葉面散布*をお勧めします。なぜなら植物に肥料を吸収させるのは、葉ではなく根から吸収させるのがベストであり、これは植物の全ライフサイクルに当てはまるからです。

葉面散布をすべき時とは、通常植物の葉以外にトラブルが発生した場合です。挿し木は、グロワーがその植物の特性をよく理解しているかぎり、正しく管理すればカンタンに成功します。挿し木の成功率が非常に低い植物もあれば、発根するまでに何週間もかかる植物もあります。親株についたままの枝から発根する植物すらあります。あなたが増やしたいと思う植物には、どんな挿し木方法が向いているのか把握しておきましょう。覚えていてほしいのは、生きた植物の挿し木を取ることは、親株にも切る枝にも、大きなダメージを与えてしまうということです。紹介したステップとポイントをしっかり守り、親株と挿し木枝を大切に管理すれば、必ず成功します!