硬水と軟水の明確な基準や、植物に与えるとき何に気をつけるべきか、という議論は、今もなお世界中で議論されています。水の硬さを表す硬度は、水中に溶けているカルシウムとマグネシウムなど、アルカリ性の金属イオン濃度によって決まります。

水には、炭酸塩や重炭酸塩のかたちで 二酸化炭素 (CO2) が溶け込んでおり、溶けている量が多いほど水の硬度が高くなります。

機関によって硬度の基準が違いますが、一般的に 60mg/L 未満を ‘軟水 ’、120mg/L 以上を ‘硬水’、その中間を ‘中軟水’ と定義されています ( 表1 参照)。

硬水、軟水、有害な水・・・なにが違うのでしょうか?  水に溶けている成分には、あえて水に添加されたものと、水に触れたとき、反応して溶けたものがあります。硬水は、洗浄力を低下させたり水道パイプを詰まらせ、特定の pH で化学反応を高めますが; しばしば健康によいと言われます。一般的に硬水は、地下水のようにミネラルを含む岩石に長時間接触した水に多く、典型的な例として井戸水があげられます。

一方で軟水は、石けんの泡立ちがよく、汚れもよく落ちます。化学反応を起こしにくく ‘無反応 ' な水質なので、水道パイプを詰まらせることはありません。しかし研究によると、軟水と心臓病リスクの高差に相関性があることが示されています。一般的な軟水は、ミネラルを多く含む地下の岩盤と長い期間接触することがない、河川や湖沼 ( こしょう) など、地表にある水が水源であることが多いです。また、RO  フィルターなど水のミネラルイオンを除去したり、ナトリウムを使った陽イオン交換樹脂で軟化してつくることもできます。

TDS や EC の値と、水の硬度

有害な水とは、単純に水質が悪い水のことで - 例えば 塩分や、栽培に適さない化学物質を多く含む水です。特に、工業地帯や農業がさかんな土地、海岸周辺など、あらゆる場所に、硬水と軟水のいずれでも存在します。

非常に間違われやすいことは、水の硬度は、イオン濃度や塩分濃度の数値とは関係ありません。
水の硬度を決めるのは、Na+( ナトリウムイオン) やCl+( 塩素イオン) など一価のイオンではなく、Ca2+( カルシウムイオン) やMg2 (マグネシウムイオン) といった、価数が 2 以上ある多価イオンがどのくらい含まれているかで決まります。一価のイオンは水の総溶解固形分 (TDS) で計測できるので、蒸留水に食卓塩を溶かして水のTDS を 450ppm (1ppm=1mg/L) にしたとしても、軟水でありえるのです。

つまりTDS やEC( 電気伝導率 ) の数値は、水の硬度そのものとは直接関係ありません。水の硬度を計測できるEC メーターがあるとすれば、カルシウムイオンやマグネシウムイオンをはじめ、すべての多価金属イオンだけを計測できる機能が必要です。例えば砂糖水は電気を通しますが、( すべてが) 硬水であるとは限りません。軟水器は、硬度の元となるカルシウムとマグネシウムを ナトリウムイオンに置き換えて水を軟化させます。つまりEC 値が同じか増えるかして硬水が軟水に変わりますが、植物には適さない水になってしまうのです。

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Hard water and soft water
図1 : 水のE C 値だけで、水質の良し悪しは判断できません。 E C 値が0 . 5 の硬水でも、植物に問題がないこともあれば、塩分や化学物質の濃度であれば、植物に有害な水となります。

私たちにとって問題になるのが、水質のちがいで肥料成分との反応がどう変化し、植物にどんな影響を与えるのか、ということです。硬水を使用すると、栽培システムに不溶性の炭酸カルシウムや炭酸マグネシウムが沈着し、かたまってしまうことがあります。これらの沈着物は熱を吸収しやすいため、短時間で培養液の温度を上昇させてしまいます。リザーバーから汲み上げられた培養液が、細い   ホースを中継して栽培テーブルや根域に流される過程で、培養液の水温が上昇して沈殿物が生じ、こびりついてしまうのです。

成分どうしが起こす反応

栽培システム内で培養液の温度が上昇すると、成分どうしが固まって炭酸カルシウムや炭酸マグネシウムが析出し、水中ポンプ、塩ビパイプ、ホース、培地の内部に不溶性の沈殿物がこびりつき、詰まりを起こします。最終的には、詰まった沈殿物で水が    せき止められ、ドリップパーツの詰まりや、ポンプの故障が発生します。

培養液中の肥料成分は、水質、肥料元素どうしの拮抗作用、pH などが影響して変化します。硬度が高い水ほど、植物が利用できるカルシウムとマグネシウムの量が増えます。これらの成分が、カリウムやリンなどの特定の肥料元素より多くなるほど  吸収されずに残ってしまいます。植物に吸い残された陽イオンの成分は、培養液のpH を上昇させるだけでなく、炭酸塩を多く含む硬水ほど、培地のpH を上昇させます。水の硬度が高くなるほど、pH を下げるために多くの酸、つまりpH ダウン剤 が必要になります。

表 1 :

施設栽培での作物生産における培養液中の化学成分の推奨上限 (参考文献 1 と 2 に基づく)

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Hard water and soft water
EC 値は、測定器のメーカーごとに異なります。上記の表は、Bluelab  Truncheon メーターで計測した値です。

中硬水

中程度の硬水を軟化する製品は数多くあります :

  1. 軟水装置をつかう。水に含まれるカルシウムイオンや、マグネシウムイオンなどを一価のナトリウムイオンに置きかえて、水の硬度を下げるのが軟水器です。ナトリウムが多くなるため、洗濯やお風呂に使うためには最適ですが、植物に与えたり飲料水にするには、不向きな軟水になります。
  2. 逆浸透膜(RO フィルター)とは、徐々に孔が小さくなるフィルターに水道水を流して、水道水に含まれる一定以上の大きさの分子や原子をフィルタリングする方法です。カルシウムなどの大きな元素をろ過できるので、確実に水の硬度を下げられます。また、元素だけでなく有害な成分やナトリウムイオン、その他ほとんどのイオンも除去できるので、TDS とEC がほぼゼロの、水になります。 しかしRO 装置と、その維持費はコストがかかる上、水道水に溶けている成分すべてを完全に除去する必要はなくー 少なくともRO 水ほど純粋な水でなくてはいけない理由はありません。

優良な肥料メーカーは、硬水と軟水それぞれが、栽培方法の種類や、肥料と培地の組み合わせで起こる問題のちがいを考慮して、肥料の成分設計をします。ポッティング・ミックス培土は、緩衝 ( かんしょう) 能力が大きく保肥性が高いので、培養液を再循環させてはいけない培地です。  培養液の再循環によって栽培システムの温度が上がり、沈殿物が生じやすくなります。ポッティング・ミックスには、pH 値の変化をおさえる天然の緩衝成分が含まれています。ポッティング・ミックス培土専用に開発された肥料を使うことで、成分含有量のちがいを調整できます。

水質と栽培システム

再循環式に向いているのは、 例えば逆浸透膜 (RO) 水などの純水をはじめとした軟水と不活性培地の組み合わせだけです。

再循環システムは、水の硬度や水に加えるベース肥料と活力剤だけでなく、すでに水道水に含まれている成分も含めて  調整する必要があります。植物が開花に移行したことを示す培養液の pH 変化シグナルを見逃さないためにも。使用する水に含まれる不要な塩類を取りのぞくことが重要です。( 例えば CANNA AQUA のように、)EC 値が 0.3~0.4mS / cm 以下の水道水で使えるよう成分設計してあり、培養液の pH 値が最適範囲に収まるベース肥料を選ぶと確実です。

このほかに Run-to-Waste (かけ流し式 ) 栽培システムは、リザーバータンクの培養液をくみあげて植物に水やりし、培地から排水された培養液を再びリザーバーには戻さず廃棄します。このシステムで重要なことは、植物にとって常に最適な pHを維持するために、培養液を作った時にpH を調整するだけでなく、継続的にリザーバー内の pH 管理を続けることです。リザーバー内で沈殿物ができるのを防ぐために、培養液の pH を最適範囲に保つ必要があります。また軟水の場合は、カルシウムイオンとマグネシウムイオンが少ないため、カル・マグ資材などを添加してイオン比率を最適に調整します。肥料成分のバランスが崩れてしまうのが心配であれば、軟水用と硬水用に分かれている(RTW システム専用) (CANNA SUBSTRA など) 肥料をお勧めします。硬水用と軟水用、どちらを選べば良いか迷ったら? 大丈夫 !水のサンプルを採取して、計測結果と上の表を比較してください。

さて、硬水と軟水のちがいを知ると何か得するのでしょうか ? 今回は水質を変化させる要因は、たくさんあることがわかりました。溶けているイオン全量だけでなく、元素の比率、肥料を希釈した時の肥料成分への影響、成分どうしがどんな化学反応を起こすのかが重要な理由は、最終的にすべてが植物に影響を与えるからです。グロワーは水質を把握し、それにあったベース肥料を選び、培養液を調整しなくてはなりません。最終的には、植物に不可欠なすべての肥料要素や、植物の生長に長期的に影響があるのか、  さらに培地にどのように作用し、保水性と保肥性や構造にどう影響を与えるかを把握する必要があります。調べることで知識が広がり、知識は成長です・・・どれだけ理解できていますか ?

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