誰もが見えるものがすべてだと思いがちだ。目に見えるものばかりにとらわれ、同じぐらい重要な、そのできごとの背景には無関心である。例えば、トンデモ発言ばかりの候補者が大統領選に勝利したとたんに、なぜあの候補者に多くの人が投票したのか、何が魅力なのか?と多くの人が不思議がるだろう。「あいつが当選するなんて信じられない。」とつぶやくかもしれない。当選者の個性や人がらが選挙に勝利した大きな理由であるのは当然だが、そもそもそんな人物に期待する社会的、経済的背景を理解することが先である。
社会情勢と政治のつながりはさておき、ビギナーがやりがちなのは根から上の部分ばかりに注目することだ、と言うグロワーもいるでしょう。ほとんどの場合、来る日も来る日もECとpHのスケジュールに沿って水やりをしていると思います。スケジュールをきちんと守っている、というケースには「生長期は、コーラのペットボトル一杯の水に、Aパートをキャップ一杯注いで、開花期になったらBパートに変える」なんてこともあるでしょう。残念ながら、根のコンディションを最高に保つためには、もう少し知識が必要です。
アンダーグラウンドでの抵抗
気孔の開閉で影響を受けるのは、地上部だけではありません。気孔が大きく開いたままなのか、小さな仙人のように閉ざされた世界にいるのか、これは根域(こんいき)にも影響を与えます。もしも根圧(こんあつ=根の細胞のEC値)が新芽よりも低くなったら、植物は根の圧力を高めて吸収力を回復させようと気孔を閉じてしまいます。そして気孔が閉じた間は光合成が止まります。つまり生長がストップするということです!
これは絶対に避けるべき事態です。では、根圧、つまり吸収力を変化させるものは何でしょう?
水分含有量
こんな初歩的なこと、とっくに知ってるよ、と思うかもしれません。わかりやすく言えば、培地に十分な水分があるかということ。でしょ? いえいえ、人生そう簡単にはいかないものです。水やりの量とタイミングは、もっとも難しい課題のひとつです。培地によって保水量が異なるので、培地をよく観察して適切に対処すべきなのです。そのうえ、正しい水やりの量は植物の生長段階や季節の変化でも変わります。これら複数の要因によって与えるべき水の量は変わってしまうので、ひとつの水やりルールを守りさえすれば良い、というわけにはいきません。よく聞いてください。植物の生長をストップさせないように最適な水やりをおこなうには、知恵をふりしぼり、いつでも最適な水やりをするよう調整しなくてはなりません。
最適な水やりとは植物が栄養生長なのか(生長期)、繁殖生長なのか(開花期)、あるいは、どちかにしたいのかによっても変わります。培地の水分を常に多い状態にすると、植物は栄養生長型になり枝葉を生長させます。その反対に、培地の水分を常に少なく乾き気味にすると繁殖生長型になり開花しようとします。だからといって培地を乾かしすぎないでください。根が乾燥しすぎると根圧が下がり養水分を吸収できなくなってしまいます。同様に、培地の保水量が100%であれば根は少ない労力で水を吸収できますが、根に問題が発生するほど低酸素状態になります。根圧が下がるだけでなく、嫌気性病原菌が発生しやすくなってしまいます。
培地の種類ごとの乾きかたの差
保水量と保水継続時間は、培地の種類によってちがいます。上の図は、ロックウールとピート培土が水分を含んだ状態から「乾いた状態」になるまでを表しています。つまり培地が含む水分が最大量になってからカラカラに乾くまでに水分が蒸発するために必要な圧力(または力)を示してします。まず目につくのは、ピート培土の線がとてもゆるやかに下降しているのに対して、ロックウールの線はカーブが急です。これは、どういうことでしょう?
ロックウール10Lと、ピート培土10Lを比べてみましょう。ロックウールは体積あたりに吸収できる水分量がとても多く、保水力が非常に高いことがわかります。最大保水量が94%で最小が10%なので、ロックウール・ポットの85%が水分ということになります。10Lのピート培土の保水量は最大で1.5Lなのに対してロックウールは8.5Lです。ピート培土の最大保水量は55%で、40%に下がると「乾燥状態」になり根が吸収できる水分はピート培土10Lの15%だけ、ということです。
ロックウールとは、水分をたくさん吸収できる培地であると同時に、水分が多い状態と非常に乾いた状態のどちらででも植物を管理することができるということです。言い方を変えれば、ピート培土をロックウールの水分量と同じにするには、同じ面積あたりより多くのピート培土が必要になります(例:8.5Lのロックウール・スラブ4枚の水分=35L/m2。200Lのピート培土の水分=30L/m2)。このようにピート培土はロックウールよりたくさんの量が必要です(12LのポットX16/m2のピート培土の量は192L)。
さらにロックウールは植物が水分を吸収しやすい培地でもあります。ロックウールのカーブが急勾配であることは、植物がより少ない力で水を吸収できるということです。つまり、ピート培土から同じ量の水分を吸収するために、植物はもっと大きな力を使います。すると植物は、より多くのエネルギーを根に送ることになるため、葉や茎をつくり生長するためのエネルギーが減ってしまうのです。ハイドロポニック栽培のほうがポッティング・ミックス培土栽培よりも早く生長できる理由のひとつがこれです。
EC: 水を乾かす方法
え? 水を乾かすってどういうこと? それってどういう意味? そして一体なんのために? まず最初の疑問への完全な答えは、そこに塩類があるからです。
この塩類とは正確には肥料のミネラル成分のことで、塩類が水に作用する物理的な性質が関係します。科学的事実 : 塩は水を引き寄せます。したがって培地のEC値が高くなるほど、多くの水を引きよせて含みます。植物は塩類から水分をうばって吸収するために、より多くのエネルギーを消耗します。人間のように湿っているとか乾いてるという感覚は、植物にはありません。根が培地から吸収するものが水分であっても肥料ミネラルであっても、植物にとって使うエネルギーが増えることに変わりはなく : 単に「乾燥している」と感じるだけです。特にハイドロポニック栽培で育つ植物にとって、これら塩類は絶対に不可欠です ; 塩類である肥料ミネラルの大きな役割は植物の主要栄養素になることがメインですが、実はあなたは植物を生殖生長(開花期)に傾けるためにも利用しています。開花期後半(フラッシング期間に入る前)にむけて、EC値を高くすると(通常はPK肥料を追加することで)、植物は乾季に入ったと判断する効果があるので、収穫に向けて果実を充実させるなどのメリットがあるのです。
酸素濃度と培地の温度の関係
培地や培養液に酸素がないと、根が正常に機能しません。また低温にさらされると植物の生長活動が止まってしまうので適温を保つ必要があります。このふたつの数値は、空気中の温度と湿度の関係と同じです。培養液の温度が上昇すると溶けこんでいた酸素の量が低下します。その反対に培養液の水温が下がれば下がるほど、溶存酸素量(DO)はすぐに上昇します。だからといって培養液をやみくもに冷やせば良いわけではなく、一定以上の温度がないと根の代謝活動を維持できなくなるため、このふたつの数値のバランスをとることが重要です。
培養液の温度は18℃〜22℃が最適です。本来、最適な温度の範囲は20℃〜24℃なのですが、培養液が培地にふれて温度がやや上がることを考慮した数値です。リザーバーのDOを上げたい時は、エアーポンプやエアストーンを使うと培養液のpH値が上がってしまうので、お勧めできません(水温を下げないかぎりDOは上昇しません)。
地上部と地下部のバランス – 根圧 (吸収量)vs 蒸散量
葉から蒸散されて減る水分の量と、根から吸収されて増える水分の量のバランスは、生長段階や生長の差で変化します。生長パターンによって引き起こされる変化というのは、(はじめて)実際に目で見て判断できるもので、蒸散量と根圧のバランスが取れているかの目安になるのです。
根圧 < 蒸散量
3つの苗のうち一番左側があてはまります。根から水が十分吸収できていないか、葉からの蒸散のほうが多いかのどちらかです。もしあなたの植物がこの状態ならば、このような育ち方になっていないか、注意してください。
1- コンパクトな生長
吸収する水分のほとんどが蒸散に使われてしまい、貯蔵と生長に使える水分が不足するため、節間が伸びず短くなり、苗がわい化生長しコンパクトな草丈になる。
2- 葉が小さい
蒸散を抑えるために葉面積を小さくして、熱にさらされるのを防ごうとする。
3- 葉がカールする
極端に強い光や熱にさらされる葉の面積を減らすために、葉が上向きにカールします。
4- 葉の黄化
根圧が低いか蒸散量が多いため、植物は葉を冷却できなくなります。すると植物は葉から残りの養分を移動させて植物全体に再分配するため、葉の色が黄色くなり落葉します。
5- 早く熟してしまう
自然現象のほぼすべてが、気温が高いほど早く進行します。果実が完熟するプロセスも同じです。水分不足になり蒸散量が多いと、植物は十分に冷却することができなくなり高温障害が起こります。気温が高いと熟成が早くなり、完熟が早すぎて収穫に適さないこともあります。
根の吸収量が低下して起こる問題 水分が不足して、 しおれる状態 | 根の吸収量低下を回復する対策 水やりの量 と/または 水やりの回数を増やす | 葉の蒸散が多すぎる問題 気温が高すぎる状態 | 葉の蒸散をへらす対策 グロウランプの光を弱めるとともに 空気の換気をよくする |
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酸素不足 1. 水温または培地の温度が高すぎる 2. 水やりのしすぎ | 1. 培地の温度を下げる 2. 水やりの回数を減らす | 相対湿度が低すぎる | 湿度を上げる 温度を下げる |
培地の温度が 低すぎる | 培地の温度をあげる | グロウランプの発熱量に対して十分な換気ができていない | ファン・コントローラーの作動開始温度を下げる または、排気量の大きな換気ファンに変える |
培地のEC値が 高すぎる | 培地をフラッシングする 低いEC値の培養液を与える | 風量が多すぎる | ファンを複数設置して空気の流れを調節し、すべてのエリアを最適な環境にする |
図表 1: 根圧の低下により、葉から蒸散される水分量より吸収する量が少ない時に発生する典型的な症状と、その対策を示しています。
根圧 > 蒸散量
3つの苗のうち一番右側があてはまります。 根が過剰に吸収している状態 (例えば温度が高めで、ECが低く、水分と酸素が豊富にある状態)であるか、または植物の新芽からの蒸散が止まってしまう(例えば高温などで)のどちらかが原因で起こります。理由がなんであれ結果として植物に「押し込まれる」水分が、蒸散される水分よりも多くなることが原因です。水分過多になった植物は、形状に変化が現れます。生長に影響して起こる変化には、いくつかのタイプがあります:
1- 節間が長くなり、徒長する
消費される水分よりも根から吸収した水分のほうが多くても、どこかで消費しなくてはなりませんよね? 行き場のない水分のせいで節間が伸びるため、草丈が伸びて徒長した苗になります。
2- 葉の面積が大きい
節間が伸びるのと同じ原理で、根の浸透圧が蒸散速度に比べて高い状態が続くと、平均的なサイズよりも葉が大きくなります。
3- ブヨブヨした花や果実
余分な水は茎や葉だけでなく花や果実にも送り込まれるため、花や果実はブヨブヨと水っぽくなります。一見大きくて立派に見えるのですが、甘みや有効成分が低くなり、良い品質ではありません。
4- 葉つゆ
極端な水分過剰状態になると、気孔から水が出なくなるため、文字通り葉の先端の気孔から水分が排出されます。葉の先端に水滴がたまる「葉つゆ」が現れます。
5- 灰色かび病
水分過剰な状態が長く続くと、特にかかりやすい病気があります。開花が進み、果実の収穫が近づいてもまだ根圧が高く水分をさかんに吸収している状態は、灰色かび病にとって好都合です。このシナリオに当てはまる典型的な原因と、その対策について説明します: 図2参照
根圧が高すぎると起こる問題 水分量が多すぎる | 根圧をおさえる対策水や りの量 と/または水やりの回数をへらす | 葉の蒸散が少ない問題 気温が低すぎる状態 | 葉の蒸散をふやす対策 除湿対策をとり、グロウランプの光を強化する |
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EC値が低すぎる | 培養液の濃度を高くする | 相対湿度が高すぎる | 湿度を除去するか、除湿機を設置する |
根域の温度が高すぎる | チラーシステムで培養液を冷やす/根域をミラーフィルムでカバーする | 風量が足りない | 栽培スペースを広くするか、すえ置き型のファンを設置する |
図表 2: 根圧が高くなり、葉から蒸散される水分量よりも根から吸収される水分量のほうが多いときに発生する典型的な症状と、その改善方法を示しています。
サマリー
この記事において成功するためにとりわけ重要なのは、植物の生長のちがいから問題を読み取る知識です。環境のちがいが、どのような生長パターンを引き起こすのかを把握しておけば、なにか問題が起きたときに最善の対処法を取ることができます。
草勢や葉の形のちがいを理解することは、異国の言葉を学ぶようなものです。流暢に話せるようになるほど、植物のニーズを正確に把握して対処できるようになります。植物たちの世話をするときに、この記事を参考するよう心がけてみてください。そうすれば、あなたは優れたグリーン・フィンガーの持ち主になれるでしょう。