植物は実に不可思議な生き物だ。 われわれ動物とは生態がまるでちがうので、なにが彼らをやる気にさせるのかは、はっきりとはわからない。多くのガーデナーがしでかす失敗の原因は(そのほとんど!)、どの肥料をどれだけたくさん与えられるかが成功のカギだ、と思い込んでいることだ。

とはいえ、“収穫が2倍に増える!” なんて うたい文句を無視することなんてできませんよね? だってボトルにそう書いてあるんですから。では3本いただきましょう、どうも。

経験豊富な熟練したガーデナーになるほど、自身の失敗から(または、ボトルのうたい文句に踊らされた結果)、植物に与えるボトルの中の肥料と同じくらい、育てる環境に気を配るべきだと理解してします。

その環境とは、葉の周囲の気温にかぎったことではありません。確かに、気温は誰にとってもわかりやすい環境の要素ですが、それ以外のすべての要素も制御すべき理由について掘り下げてみましょう。植物の根もまた、ダイレクトに環境(培地)と接触しているので、目に見えない物を見きわめるのは至難の業です。地上と地下のバランスをいかにうまく取るかが、このゲームの勝敗を分ける鍵ですー賞金は? 調和のとれた収穫。

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栽培環境 - Part 1
この図では、葉の周囲の湿度は60% 前後に保たれているのがわかります。
葉のうらにある気孔からは水分が蒸散されるので、この周囲は湿度が上昇します。

地上部

それでは、地上部からはじめます。実際、大気の変化が植物に与える影響とは? この問いは、葉の気孔が気候の変化に対応するために何をしているのか、と本質的に同じです。気孔という機能は、植物独自の特徴であり、それが環境の変化にどう反応するかを知ることが今回の目標です。

ガーデナーであれば、植物がこの働きのおかげで光合成できるということを知っているでしょう。日中は、開いた気孔から二酸化炭素をとり込こんで、光合成をおこないエネルギーを生み出しています。でも、それはほんの一部! もっと重要なのは、日中の暑さ(太陽や、グロウライトから放射される赤外線)から体を冷やす働きです。葉の温度を下げるの役割のすべてをに担っているのは、葉ウラにある気孔とよばれる小さな穴です。決まった時間だけ気孔を開き夜になったら閉じてうたた寝する、なんてことはできません。気孔は一日中絶えず変化して、植物全体に何が起こっているのか、次に何が起こるのかを感知して、閉じたり開いたりします。

光は、植物の多くの活動に関わる重要な役割を果たしています。 光合成する速さ(1秒あたりに受け取った光合成光量子の数が多くなるほど、光合成量が増加する)を左右し、光の熱(特に赤外線) を利用したり (同化プロセスを速める) 、熱が上がりすぎれば気孔を開いて葉の温度を下げたりします。夜間(消灯時間帯)は気孔を閉じ、日中(点灯時間帯)は光の強さと時間の経過とともに気孔を開く大きさが変化します。

一般的な法則として、光の強さを半分にすれば(50%調光にするか、半分のライトを消す)、発生する熱も半分になるので植物の蒸散量を減らすことができます。しかしそれに応じて、光合成する量と生産するエネルギーが低下します。ですから、湿度を下げたい時の最後の手段として使うのがベストです。とはいえ室内栽培では、夏場など特に暑くなる日の終わりに、植物が一日中しおれ気味になる場合は、光を弱くすることが最も簡単で効果的な解決法になることが多々あります。屋外の場合は、これが正午に起こりやすくなるので遮光ネットが必要になることがあります。

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栽培環境 - Part 1
気孔の写真。気孔内部の湿度は常に100%に保たれている。

気温

気孔は、気温の変化に応じて活動します。気温が高ければ高いほど(または光スペクトルに含まれる赤外線の量が多ければ多いほど)、植物は、自身を理想的な温度に下げるまで、より多くの水分を蒸散します(つまり気温が高くなるほど湿度も上昇します)。

植物は暑くなればなるほど、体を冷やさなくてはなりません。自身を冷ます必要が高まるほど、気孔を大きく開きます。気孔が大きく開くほど、多くの水分を蒸散して自身を冷やすことができます。植物が生きている間に消費する水分のほとんどは、植物自身の体温を冷やすために消費されます。つまり吸収した水分の99%が蒸散に使われ、光合成など他のプロセスにはたった1%しか使われません。

理想的な温度とは、栽培する植物と収穫する部位によって維持すべき温度のガイドラインが異なります。また、CO2添加をするなど環境のちがいで変わります。一般的には、24時間での平均した温度で植物がどう変わるかを見ます。この平均気温をもとに昼夜の温度差を作ると、植物がムダにエネルギーを消耗するのを防ぐことができます。

昼夜の温度差をゼロにすると (Diff=0。例 : 昼と夜の気温がいずれも24℃)、植物は光合成でつくったエネルギーを生長(新しい葉や新芽)する活動に集中させるため、植物は生長期型(=栄養生長)に傾きます。昼と夜の温度が大きい場合は(Diff=8℃。例 : 点灯時間帯の平均28℃、消灯時間帯の平均20℃)、エネルギーを花や果実、種子の生産に集中させるので、植物は開花期型(=生殖生長)に傾きます。つまり、生長期(=栄養生長)をさせたいときは昼夜の温度差を少なくして、開花期(=栄養生長)にしたいなら昼夜の温度差を大きくします。気温が高くなるほど、すべての代謝プロセス(光合成など)のスピードが速くなることに注意しましょう。温度が高くなるほど、光合成がさかんになりエネルギーの生産も増えますが、当然、植物が最適な温度を保てないほど温度が高くなれば逆効果です。また、温度の数値だけ管理すれば良いわけでありません。温度と同じぐらい重要なもうひとつの要素 : 湿度 とのバランスが非常に重要です。

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栽培環境 - Part 1
VPD(飽差)を正確に管理したい場合は、赤外線温度計とデータロガーが最適です。グラフ上で気温が急に上昇した時点(通常は夕方の時間帯=もうすぐ消灯する)では気孔は閉じていることを示します。ライトの光を弱めることでも対処できますが、これを引き起こす直接的な原因を解決する必要があります。

相対湿度 (RH)

空気中のRHが低いほど、湿度が100%に保たれている気孔からは水分が蒸散されやすくなります。例えば、混雑した電車が混雑した駅のホームに到着したらどうなのか想像してみてください。車内もホームも100%満員状態ではドアが開いても誰も降りられません。でもホームにいる人が50%だったら、人々はホームに降りることができます。

しかし実際には、駅のホームに例えられるほど単純な話ではありません。空気の湿度が下がって乾燥すると気孔内に蒸気の「吸引力」が生じて蒸散する量が増えます。その結果、気温が下がりすぎると気孔は閉じます。しかし湿度が上がりすぎると逆の作用が働いて気孔は大きく開きます。湿度に、こじゃれた「相対」という言葉がつく理由は、気温が湿度に直接影響を与えるからです。厳密には、「相対」をつけずに単に湿度という場合は1㎥の空間に何グラムの水が含まれているか、を指します。水分は、気温とともに水蒸気になったり結露したりと物理的に変化してしまうので、最適な湿度の数値を定義しても、あまりグロワーの役には立ちません。そこで、湿度のルールを定義する際には、気温ごとの空気中の水分を指す「相対湿度(RH)」が使われます。RHとは、ある温度の空気中に含むことができる最大限の水分量に対して、実際に含まれている水蒸気の割合を%で表した数値です。グロワーがチェックすべきポイントは、湿度計が何%になっているのか、と、その時の気温です。

 100%75%50%25%
28ºC4L3L2L1L
20ºC3L   
5ºC1L   

これは、1立法メートルあたりに含むことができる最大の水分量(リットル)を、気温ごとに示した図です。基本手には気温が高くなればなるほど、より多くの水分を含むことができます。これは実際の数値ではなく、実際に起こっていることを簡単に数値化したものです。

ではこの知識を、あなたのグロウルームにどう活用したらいいのでしょう? 一体なにが起こるのか、上記の表を見ながら、いくつか例をあげて説明しましょう。いつも通りのグロウルームにいると想像してみてください。ライトは点灯して気温は28℃、湿度が75%で、満開になった花の香りでいっぱいです。やがてライトが消えて気温は20℃まで下がりました。では湿度は? 上の表では気温28℃のときの湿度は75%で3リットルの水分があるとなっています。気温が20℃まで下がっても、3リットルの水分は空気中に残ったままなので相対湿度は100%になってしまいます。要約すると : ライトOFF >> 気温が下がる >> 相対湿度が上昇する。

では、冬の場合は何が起こるでしょう? 外は寒く、雨が降っています。気温は5℃に届くかどうかで、雨のせいでRH湿度計は100%を示しています。あなたは冷たい外気を最新の高性能吸気システムで直接グロウルームに送り込んでいます。問題は、グロウルーム内の気温が熱帯ジャングルなみの28℃にもなり、これがRHにどんな影響を与えるかということです。上の表から1立法メートルの空間は、気温が5℃のとき1リットルの水でRHが100%になることがわかります。冷たい空気に含まれていた1リットルの水蒸気が、28℃の室内に取り込まれると、RHは25%まで急降下してしまうので、皮肉にも室内は非常に乾燥してしまうのです。

飽差 (VPD)

わかりやすい例でしたが、植物が気孔から蒸散する水分量を変える要因は、決して乾燥した空気を「吸収」することではありません。

蒸散される量は、気孔の内側と外側の気圧の差によって決まります。気孔の内部は相対湿度が常に100%なので、植物の温度が気孔内部の気圧にダイレクトに影響を与えます。葉の温度が上がれば上がるほど(光があたることで)、気孔内部の温度も高くなるので気圧が上昇します。すると、気孔の外側のほうが気圧が低くなり、気孔内部にあった空気が外に拡散します。

飽差については非常に複雑な説明になるのでここでは省きますが、家庭菜園を楽しむホームガーデナーが知っておくべきことは、葉の表面温度は環境温度よりも低く保ちましょうということです。 例えばグロウルーム内の温度よりも葉の温度のほうが高くなってしまうと、植物は葉から水分を蒸散して葉の温度を下げるようとするのですが、根から吸収される水分量では不十分になるので、やがて気孔を閉じてしまいます。これは植物にとって、かなり最悪なシナリオです。気孔を閉じた葉は、もはや冷却できなくなるので、あっという間に葉の先端から焼けてチップバーンが発生します。この症状が出てしまったら、気温を下げるなどすぐに対処をしないと、葉は完全に黄化して枯れてしまい元の緑色には二度と戻りません。

換気で気温調節を

手軽に平均気温をコントロールする方法とは、完全に密閉した空間でないかぎり、空気を循環させて外部を取り込むことです。フレッシュな空気を取り込めば、CO2濃度を回復させながら過度な湿度を下げることもできます。最適な換気システムを選ぶためにはいくつかのポイントがあり、グロウルームの広さと照明のワット数がもっとも重要になりますが、あまりにも多くすぎてここでは全てを説明しきれません。しかし換気システム選びで一番重要なのは、空気を十分に換気できる大きさだけでなく、機能性の高さです。例えば、温度に応じて自動的に作動する換気システムであれば、夜間と日中の温度をそれぞれコントロールできるので、理想的です。

しかし、グロウルーム内に取りこまれる外気の温度には気をつけてください。気温が低い冬には、冷たい空気を天井に向かって取り入れて、植物に届くまでに空気の温度を上げる工夫が必要です。また気温が高い夏には、床面から空気を取り入れて、植物に届くまでに(照明の放射熱で)空気の温度が高くならないようにしてください。

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栽培環境 - Part 1
植物から植物へ横方向に空気を移動させるために、植物の真横に送風ファンを設置する。空気が部屋の片側からもう片方へと移動するにつれ、植物の相対湿度が上昇していきます。そのため、ファンの近くにある左側の植物の蒸散量がもっとも多く、ファンの一番遠くにある右側になるにつれて植物の蒸散量は少なくなります。

空気の流れ

あなたは 、グロウルーム内のすべての植物とすべてのエリアが最適な空間になる「微気候」をできるかぎり造ろうとするでしょう。そのために重要なのはまず、どこに送風ファンを設置するかです。ただ単にグロウルームの端から端へ空気を押し出すようなことは避けましょう。空気がグロウルーム内を移動するにつれて、植物から蒸散された水分を含むので湿度が上がります。場所によってグロウルーム内の「微気候」が違ってしまわないように、室内の空気を十分に循環することが重要です。時間をかけて、送風ファンを置くべき場所を決めてください。グロウルーム全体の湿度や温度を均一にして快適な「微気候」に保ちましょう。さもないと、乾きやすく水やり回数が多い苗とそうでない苗がでてくるので、水やりのスケジュールと生長の速度にバラツキが生じてしまいます。

サマリー

ここまで環境が植物の葉に影響を与える主な要因と、それによって蒸散量がどのように変化するのかを見てきました。しかし、これがすべての説明ではありません。この話は、もっと深いところまで掘り下げなくてはなりません。実際、文字通り地中深くまで、です。ガーデナーにとって、水分が蒸散される速度と根から吸収できる速度のバランスを取ることが究極の目標のひとつです。深刻な強迫症を患う人ですら引いてしまうほど、グロウルーム内の環境と植物の状態を常に観察してください。

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