ロックウールは、玄武岩を溶かして繊維状にしたものを キューブ、ブロック、スラブ、フレークなど様々な形状に加工した軽量なハイドロポニック用培地です。ロックウールや石材、ミネラルウールは原料が岩石であるため、多くの人が天然由来の培地だと認識しています。農業生産施設でロックウール培地は、トマト、メロン、きゅうり、ピーマン、イチゴ、ハーブ、切り花など、あらゆる作物の栽培で幅広く使われていますが; 本格的に根域制限栽培を実践したい、小規模なハイドロポニック・ガーデナーにとっても最適です。
ロックウール の起源は?
本来ロックウールは、建築資材の断熱材として開発されました。軽量で通気性が高いため、屋内の熱を逃さず、扱いやすく、カットと施工がしやすいことから、断熱材として使われるようになったことが始まりです。1960年後半に、デンマークでハイドロポニック用培地として試用されて以降、ロックウールは栽培用培地として開発、改良されてきました。
ロックウールは、大規模な農業生産施設から家庭菜園まで、幅広く利用されています。また、ロックウール製品には、使う用途とメリットに合わせて様々な製品がつくられています。幅広いサイズのキューブ、ブロックと、発芽用プラグをはじめ、果菜類の長期栽培に適したスラブやフレーク状のロックウールもあます。
ロックウールの特性
ロックウールは、融解したロックファイバーを重ねる方向と内部の密度を変えることで、保水力、排水性、通気性の高さ、キューブやスラブでは上面と底面の水分勾配の大きさなど、用途に合わせた特性の製品を作ることができます。製品に求められる特性ごとに製造できるので、さまざまな用途と、グロワーの規模に対応できます。
例えば、作物の生長を抑え気味にしたいニーズには、根域をやや乾燥気味に保つ特性のある製品があり、反対に、根の生長と根張りが最大限に早まるようデザインされた製品もあります。つまり生産者は、栽培システム、作物の種類、かん水方法、環境に最適なロックウール製品を選ぶことができます。
ロックウールの水分勾配
メーカーや製品によって多少の差はありますが、培養液をかん水した直後の標準的なロックウール製品の成分比率は、培養液80%、空間15%、ロックウール繊維5%になります。トマトや果樹の栽培で使用される一般的なロックウールスラブの底には、よぶんな培養液をすぐ排水できる溝がついていますが、それでもかん水直後に約9Lの培養液を含みます。
ロックウールの大きなメリットのひとつは、培地に水分がわずかになっても、プラントは水分を吸収できるので生長がストップしないことです。他の培地では直ちに立ち枯れが発生するような、水のやり過ぎや、水不足(70~80%が蒸発)の状態になっても、ロックウールではプラントが水分を吸収できます。
スラブ、キューブ、ブロックの形状のものは、上面と底面で保水量に差があり、大きな水分勾配があることもロックウールの特徴です。ロックウールに水やりをした時、底面は満水状態になりますが、上面は乾いているため、根は酸素と水分の両方を十分に吸収できます。上面と底面で保水量に大きな差がある、というロックウールのこの特徴が、ハイドロポニック用培地として最適な理由なのですが、この特徴をよく知らないまま、ロックウールの表面だけを確認して、培地が乾きすぎてしまったと思い違いをしてしまい、根の先端には培養液が十分にあるにもかかわらず、過剰に水やりをしてしまうグロワーもいます。
スポンジ培地のように養液にどっぷりと浸る栽培システムには、ロックウールは向きません。ロックウールの正しい使用方法は、与えた水が完全に排水できるシステムで使用することであり、余分な培養液が自然に排水されると、培地の上面に新鮮な空気が取り込まれて、根に新鮮な酸素がいきわたります。根が酸素不足になることを防ぐために、ロックウールから余分な水分をしっかり排水させることが重要です。
ロックウール培地への水やり
ロックウールには一般的な水やり方法が向かない理由は、非常に大きく育つプラントをロックウールのような水分勾配がある培地で育て、大きく成熟したときになると根域制限栽培のようになるからです。ロックウール培地への最適な水やり方法は、「圃場容水量~ほじょうようすいりょう~」程度の量の培養液を短時間かつ、こまめに水やりすることです。
「圃場容水量」とは、培地から余分な水分が排水されたあとに培地の底面に残る水分量のことで、プラントは次の水やりまで、この水分を吸収できます。適度な水やり量の目安は、排水量が多くなりすぎない程度で、与えた培養液の10%~35%程度が排水されるように水やりするのが望ましいです。この排水量の目安を維持して水やりすを続ければ、水やりのたびにロックウールスラブ全体が新鮮な培養液で洗い流されるので、スラブ内部をかなり安定したEC値で保つことがてきます。
EC管理
他の培地と同じく、ロックウール培地もEC 値を測定しなくてはなりません。ロックウールには天然ミネラルや塩類など含まれていないので、ロックウール自体が培養液のEC値を変化させる心配はないのですが、プラントが水分と養分を吸収すると培地内のEC値は変化します。とくに、ロックウール培地を再循環式のシステムで使う場合は、他の培地とおなじくECとpHを調整するために、定期的に計測とメンテナンスをすることが重要です。
暑くなると、プラントは培養液の水分だけを吸収してEC値が急速に上昇するため、リザーバータンクに水分を足す必要があります。逆に、寒いときや湿度が高くなると、プラントは培養液の肥料だけを吸収するため、培地が乾いていなくてもEC値が下がります。EC値をこまめにチェックし、生長を止めないために肥料だけを足す必要があります。
ロックウールは生産者が根域をコントロールしやすい培地なので、生長と開花のどちらのモードにも'生長モードを切りかえる'ことができます。ロックウールスラブの場合は、水やりのインターバルを長めに取り、培地を乾かし気味にしておくと根域のEC値が上昇するので、トマトのような野菜では葉に送っていた養分を果実に送りはじめて開花モードへと切りかわります。水やりを多くしてロックウールの保水量をふやしてEC値を下げると、プラントは葉や茎をさかんに伸ばす生長モードになります。熟練した生産者は、このロックウールの特性を活用して作物をコントロールし、生長モードを葉、花、果実へと切りかえています。
ロックウールと微生物
製造時のロックウール製品は'無菌状態'であるため、最初はプラントに有用な微生物群が含まれていませんが、研究にの結果、ピートモスやココ培地などの有機培地と同じように、ロックウール培地にも微生物が繁殖できることが証明されています。しかしロックウールには、微生物のエサとなる炭素源がないため、有用菌類はすぐには増えません。大きく育ったプラントが、根から有機物を含む根酸を放出するようになると、ロックウール内で微生物群がだんだんと増えてくるのですが、微生物資材を培地に入れると、このプロセスを早めて健康な根域を形成することができます。きちんと管理された栽培システムでは、ロックウール培地に酸素がきちんと行き届くため、有用な微生物群が定着し増加しやすくなります。
ロックウールの再利用
原料が鉱石であるロックウールは、長く使っても腐敗したり崩れたりしないので、生産者は何度も再利用することができます。しかし、再利用には病原菌のリスクがあるため、ロックウールを蒸気殺菌するか、熱湯消毒してから再利用するのが一般的です。また、前回の栽培でたまった過剰な肥料塩分を取りのぞくために、きれいな水で十分に洗い流します。ホームガーデナーのなかには、再利用前に漂白剤でロックウールを消毒する人もいますが、完全に洗い流さないと苗に障害が出てしまうため、蒸気や熱湯で殺菌するほうが安全だといえます。最終的にロックウールを廃棄する場合は、シュレッダーにかけて、他の培地とミックスして再利用したり、土壌や庭にすき込むと土壌改良効果があります。
ロックウールのメリット
ロックウール培地でのハイドロポニック栽培には、多くのメリットがあります : 鉱石を溶かしたロックウール繊維をプラスティック・バッグで包んだスラブ培地は、無菌であり、雑草の種や害虫、病害菌の心配がありません。
高品質ロックウールのメーカーが製造する製品は、時間が経つと分解してしまう天然素材の培地とはちがい、構造がずっと安定しています。ロックウールは:
- 再利用や年月を重ねても、物理的な構造を維持します。
- 軽量なので、持ち運びしやすく簡単に設置できますが、完全に水を吸収すると重くなり、作物をしっかりと安定させることができます。
- レタスなど葉もの野菜の直播(じかまき)栽培に最適な2cm~3cmの小さなプラグから、より大きなポットへの植えましに適した10cm以上のキューブまで、さまざまなサイズが選べます。
- 小さなプラグは挿し木取用培地にも最適で、保水性と通気性のバランスがよいため、発根が早まります。
- ココ培地のようにトリコデルマをはじめとした有用菌を定着させることができますが、ロックウール培地に有用菌を定着させるには、菌資材を与える回数を多くする必要があります。信頼できるブランドのロックウール製品は、培養液のEC、pH、肥料成分を変化させません。ロックウールには、土壌由来の肥料を含んでいないため、すべて必須成分がバランスよく配合された肥料と使用しないと、プラントはしっかり育ちません。
- 根に最適な水分量と通気性を与えられるように作られているため、水やりをしすぎた時にも根が酸素不足を起こしにくい培地です。
- 長期栽培後も、構造がほとんど崩れないので、再利用できます。トマト施設栽培では、再利用前に蒸気処理をおこない根腐れ病を起こす病原菌を殺菌して、最大で6回再利用する生産者もいます。
- スラブなど栽培専用の製品は、培地全体に十分吸水させるだけで、すぐ植えつけができます。
- 培養液の計測メーターで、培地内の水分量、EC値、温度を正確にモニタリングできるため、生長段階ごとに最適な培養液管理ができます。
ロックウールのデメリット
ロックウールは:
- 非常にかさばるため、ココスラブなど圧縮して使用時に吸水させて復元する培地と比較して、輸送や保管にコストがかかります。
- 培地全体で水分量を均一に保つ必要があるため、完全に平らな場所に設置する必要があります。くり返し再利用が可能であり、使用済みのロックウールのリサイクルも進んでいますが、腐らず分解されないため、生産者にとって廃棄の手間と費用が課題になります。
- 繊維に皮膚への刺激性があるため、フレーク状の製品を扱う際や、古いロックウール を破棄する際には、防じんマスクなどの着用が必須です。
- 原料に肥料成分が含まれていないため(ココ培地成分を調整するためのカリウムをはじめとしたミネラルが含まれていますが)、生長段階ごとの比率にした培養液を与える必要があります。
- 鉱石が原料の不活性な培地であるため、フミン酸などの有機成分や天然由来の有用菌など、天然由来の植物の生長を促進する成分は含んでいませんが、品質が高いハドロポニック用活力剤や資材を使用すれば、生長促進効果を得られます。
ロックウールは、パーライトやココ培地など他の培地とは多少性質が異なるため、はじめてロックウールを試すグロワーや園芸のビギナーは、水やりする量と回数に注意が必要です。